秘密の地図を描こう
13
パイロットコースに進んでよかったのは、こうして授業中もキラと連絡が取れることかもしれない。
しかし、だ。
「……これで手加減をされているのか?」
反撃するまもなく撃墜された自機を見つめながら、レイはそう呟く。
『まぁ、相手が悪かったな』
低い笑いとともにミゲルの声がスピーカーから流れ出た。
「アイマン教官?」
大丈夫なのか、と思いながら聞き返す。
『安心しろ。今はお前以外につないでないから』
さすがにばれるとまずいだろうが、と彼は笑う。
『それよりも、キラの動きをもう一度確認して見ろ。何であっさりやられたのか、考えるんだな』
それがわかれば、次はもっと長時間、戦っていられるはずだ。
「はい」
しかし、彼の動きを理解できるだろうか。
『まぁ、俺もやられたからな。人のことは言えないが』
しかも、いきなり乗せられたばかりの素人だったていうのにな……とミゲルは小さな笑いを漏らす。
「それは……」
何と言えばいいのか、と考えてしまう。
『まぁ、俺も悪かったけどな』
相手がナチュラルだと気を抜いたせいで、隙ができてしまった。だから、素人にも負けたのだ。
そのおかげで新人を教育するときに役立っているが、と続けた。
『気力があるなら、後でレポート提出な』
その時間はあるだろう? と彼は言う。
「わかりました」
確かにまだシミュレーションの時間内だ。そのくらいは可能だろう。
それに、文字にすれば自分でも改めて気づくことがあるかもしれない。
「本当は、キラの他の動きも確認できればいいんだろうが……」
ここでは難しい。
フリーダムの動きであればライブラリに保存されているかもしれないが、同室がシンだから……と思う。
彼がフリーダムに何かこだわりを持っているらしいことはわかっている。しかし、それがどのような内容なんか。自分は知らないのだ。
「……逆に言えば、早めに知っておいた方がいいのか」
今後のことを考えれば、とレイは呟く。
「資料映像なら、いくらでもいいわけができるか」
興味を持ったと言えばいいだけだ。逆に、何故、そんな反応をするのか。それを問い詰めることもできるだろう。
「これからのことを考えれば、そうした方がいいかもしれないな」
状況によっては彼の目の前でキラと話をしなければいけないことがあるかもしれない。そのときに騒ぎになるよりは事前に確認しておいた方がいいような気がする。
「申請しておくか」
閲覧の、と口の中だけで呟く。
もっとも、キラにばれた時点で却下されるような気がする。だが、そのときは別ルートから入手するしかないか。
そちらからならば、キラも文句を言えないだろう。
「ともかく、今日の分だな」
そう言いながら、シミュレーターのキーボードを引っ張り出す。そして、先ほどの結果を改めて表示した。
「……ポジション取りか……それとも、スピードか」
今日、あっさりとやられた理由はどちらなのだろう。
もちろん、そのどちらも自分がキラに劣っているとはわかっている。
それでも、少しでも追いつきたい。
今は無理でも、いずれは彼を守れるようになりたい、と思う。
「高望みかもしれないが……」
それでも、だ。
そんなことを考えながら、レイは五分に満たない映像を何度も見直していた。